玲-1

2005年2月2日 連載
早く行かなきゃ。
とにかく急いで。
彼が待ってる。
(彼って?)
彼は彼。
(何処で?)
あれ?

自分が誰だか思い出せない。









「誠に残念なことですが・・・」
「はぁ・・・いえ、こちらこそお世話になって。」

誰かの話し声で目が覚めた。
何を話しているのか聞き取ることはできるのに理解ができない。
右から左に抜けて行くようだ。
なんだか頭の中が鈍器で殴られでもしたかのようにずっしりと重かった。
多分このせいだと思う。序でに言えば起き上がる気力もない。
無意識に見つめていた天井を今度は意識的に見た。
白い塗料で塗られた天井。白。白。白。
「病院か・・・。」
なんとなく無意識に言葉がでた。薬品のにおいがする病院独特のにおいだ、そう思っていた。
そうしたらちょっと顔に疲れの浮かんだ女性が近づいてきて、言った。

「レイ!やっと目が覚めたのね。」
目だけを動かして見るが、目に涙を浮かべて此方を見る女性に見覚えはない。
そして自分が"レイ"と呼ばれたことに気付いた。どうやら自分の名前は"レイ"というらしい。
そして今更に気付いた。
自分は自分の名前さえも知らなかったことに。

「あの・・・・・」
「なぁに?どこか痛いの?それともおなかが空いたの?」
女性は息も吐かずに言い切ると、今度は"レイ"の言葉を待った。

「貴女は・・私のお母さん、なんですか?」

なんとも間抜けな質問だ。でも自分にとってはとても意味のある質問だった。
世間ではこれを記憶喪失というのだろう。
"レイ"にはこの状況がわからなかった。何故自分がこの女性に心配されているのか。
何故自分が病院で寝ているのか。自分は何者なのか。
女性に言われて初めてわかった"レイ"という名前以外に何もわからなかった。
いや、知らなかった。
だからこそ聞いたのだ。

あなたは自分の母親なのか否か。
そしてそれを問う際に新たな疑問に行きついた。



自分は"男"なのか"女"なのか。




女性の涙の浮んだ目が見開かれて、女性の目が充血していたことに気が付いた。


<続ケ>

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亮

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