玲-2

2005年2月2日 連載
何が?
知らない。
何時?
知らない。
何処で?
知らない。
なんで?
わからない。
けど、懐かしかった。









都会というわけではない。かといって山々に囲まれた田舎でもない。
そんな町の駅に僕の乗った電車は停まった。
ここからまたバスに乗り換えて3時間ほど揺られる事となる。
そして其処には、僕がこれから高校生活を過ごすことになっている高校がある。
今日から―正確には明日からだが―僕はその学校の寮生となる。

僕の名前は、松澤玲(まつざわ れい)。一見すると女の子の名前みたいだけど、
僕は女の子じゃない。列記とした男だ。・・・と思いたい。
でも、本当に僕は男なのだろうか。時々違和感を感じる時がある。

僕は電車を降りて、少し止まりかけていた足を再び動かした。
そうだ。今何時だっけ?えーと。今は5時32分で、バスがえーと。
なになに?5時35分に来るんだね。ふんふん。で、後2分で来るわけだ?
って・・・え・・・。
学校の近くまで走るバスは一日に1本しか走らないんだった!
今乗り送れたらまた明日の朝までこない!
「・・うわぁっ・・・・。」

僕は駅員の一人しか居ない改札を駆け抜けて行った。



* * * * * *


バスに乗ってどの位経っただろうか。
最初は数分間隔で停留所に停まっていたバスが次第に停まらなくなり、
外に見える風景も山や畑と田舎のそれになっていた。
バスの中にはちらほらと僕と同い年ぐらいの人が見られた。多分僕と同じ理由で来た人達だろう。
特に話す人も居ない僕は、変わらない窓の外の景色に視線を向けていた。

その間、今日の朝―といっても夜中といっていい時刻―に家を後にした僕を
心配そうな顔で見送った母さんの顔が思い出された。
母さんは最後まで僕の寮生活を反対していた。反対した所で、僕が受験して合格したのは
今僕が向かっている学校だけだったのだけれど。
母さんが反対した理由は、態々考えなくても分かる。
僕が記憶喪失になってしまったからだった。
正直、僕は母さんのことを母さんだと知るまで只の"女性"としか認識していなかったし、
今でも母さんに向かって『母さん』と呼びかけることに少なからず抵抗がある。
その上僕は、勉学や常識、流行などに関して、つまり知識に措いてはあるものの。
それまでの自分の人間関係や自分に関することは全て記憶から抜け落ちていた。
自分の名前どころか性別さえもわからなかったほど。



「・・・ぃ・・ぉい。」

何かが聞こえた、気がした。懐かしい声。
何時か何処かで聞いた事のある声。懐かしい。この前聞いたのは何時だっけ?
そう言えばいつもこーやって起こされてたなぁ、あいつに。
・・・いつも?あいつ?

「・・おい。」
「・・・・ぁい?」
僕は誰かに肩を揺すられていることに気付き目を覚ました。
目の前に居たのは僕とそう変わらない年頃の少年で。

「お前も関桜(せきおう)高校の新入生だ・・ろ・・・?」

初めて会った少年の顔を凝視して硬直していた僕は、
突然湧き上がってきた感情が何なのか気付くまで


自分が泣いていることに気が付かなかった。




<続ケ>

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亮

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